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長崎地方裁判所 昭和52年(わ)124号 判決

主文

被告人原田利夫を懲役一年および罰金二〇万円に、

被告人福田廣美を懲役一年に、

被告株式会社福田住宅を罰金二〇万円に、

それぞれ処する。

被告人原田利夫において、右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人原田利夫に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の、被告人福田廣美に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の、各執行を猶予する。

訴訟費用中、国選弁護人川口春利及び証人馬場妙子、同清水富美夫に支給した分は全部被告人原田利夫の負担とし、証人河内博視、同田浦敬久(昭和五二年一〇月一三日及び昭和五四年一月二二日に支給したもの)、同中島莞也、同増田康行に支給した分は、いずれもその二分の一ずつを被告株式会社福田住宅及び被告人福田廣美の負担とする。

理由

(罪となる事実)

第一  被告人原田利夫は、東京都豊島区駒込一丁目一三〇番地において、土地建物売買、土地建物仲介等を主たる目的とする湘南丘陵興発株式会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、同社の業務に関し、営利の目的をもつて、建設大臣及び都道府県知事の免許を受けないで、別紙一欄表記載のとおり、昭和四九年一一月一六日ころから昭和五〇年四月七日ころまでの間前後四一回にわたり、長崎県諫早市平山町所在の通称青葉台ニユータウン現地販売所ほか二ケ所において、村上輝義ほか四〇名に対し、宅地合計七、三一五・四七平方メートルを、代金合計一億二、〇四一万五、〇〇〇円で売却し、もつて、宅地建物取引業を営んだもの、

第二  被告株式会社福田住宅は、福岡市南区大字平原一、〇九二番地に本店を置き、宅地建物取引業を営んでいたもの、被告人福田廣美は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、同社の業務に関し、湘南丘陵興発株式会社(代表取締役原田利夫)が、営利の目的をもつて、別紙一覧表記載のとおり、昭和四九年一一月一六日ころから同五〇年四月七日ころまでの間、前後四一回にわたり、諫早市平山町所在の通称青葉台ニユータウン現地販売所ほか二ケ所において、村上輝義ほか四〇名に対し、宅地合計七、三一五・四七平方メートルを代金合計一億二、〇四一万五、〇〇〇円で売却して宅地建物取引業を営むにあたり、その情を知りながら、前記場所において被告会社の名義を湘南丘陵興発株式会社に使用させ、もつて、被告会社の名義をもつて他人に宅地建物取引業を営ませたもの、

である。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

該当法条

判示第一の所為(被告人原田)

宅地建物取引業法一二条一項、七九条二号、八四条(懲役刑及び罰金刑の併科刑選択)

判示第二の所為(被告会社及び被告人福田)

同法一三条、七九条三号、八四条(被告人福田につき、懲役刑選択)

労役場留置(被告人原田)

刑法一八条

執行猶予(被告人原田及び被告人福田)

同法二五条一項

訴訟費用の負担(被告人全員)

刑訴法一八一条一項本文

(当裁判所の判断)

第一  営業主体について

検察官は、主位的訴因において、被告人原田の刑責につき、本件取引の営業主体は被告人原田であるとして、宅地建物取引業法(以下、宅建法という。)七九条二号の適用を主張し、かつ、被告会社及び被告人原田の刑責についても右主張に対応する名義貸しの主張をしており、他方、被告人原田は、本件取引の営業主体は海老名嘉生であり、自らは同人に雇われ、その手伝いをしたにすぎない旨主張する。

しかしながら、関係各証拠によると、本件各土地は、いずれも、被告人原田を代表取締役とする湘南丘陵興発株式会社(以下、湘南丘陵という。)がこれを買い上げて、判示のとおり、被告会社名義で売却されたものであるところ、右湘南丘陵は、かつて、宅建業を営んでいたものであるが、右本件各土地の買い上げ及び売却当時においても、本件事業を除き、格別の営業はしていなかつたとはいえ、未だ法律上有効に存続しており、宅建業取引上の法律効果の帰属主体としての適格性を有していたものであるうえ、本件各土地買い上げ及び売却に際しても、被告人原田は、海老名と協同して、その資金の捻出、土地買い上げの交渉、売り出しに当つてのチラシ、広告の作成、客の案内、現況説明、代金の受領、諸経費の支払い等その諸業務を遂行し来つたことが、いずれも認められるのであり、これら事実関係のもとでは、本件取引の営業主体は湘南丘陵にあり、被告人原田は、同社の業務に関し、その代表取締役として判示行為に及んだものと解するのを相当とする。

しかして、右湘南丘陵は、かつて、東京都知事の免許を受けて、土地、建物の売買、仲介業を営んできたが、昭和四三年九月七日ころ、右免許の更新手続を怠つたために右免許が失効し、爾来、判示各取引までの間、宅建法上、何らの免許も受けることなく無免許であつたものであるところ、被告人原田はこれを熟知しながら判示所為に及んだものであるから、この場合、同人については、宅建法八四条の両罰規定により、その刑責を負うものというべきである。

検察官の主位的訴因及び被告人原田の前記各主張は採用できない。

第二  被告会社及び被告人福田の刑責について

(一)  まず、被告会社らは、判示各取引は、いずれも、湘南丘陵との業務提携として、被告会社の名とその計算において行われたものであり、名義貸しには該らない旨主張する。

しかしながら、判示各取引が湘南丘陵を営業主体としたものと認められることは前説示のとおりであるうえ、関係各証拠によると、被告会社の代表取締役である被告人福田において、判示各取引に際し、自らの責任と計算においてこれに携わる意思は勿論のことその事実も全くなかつたと認められるのであるから、右の主張は到底採用し得ないものである。

(二)  次いで、被告会社らは、湘南丘陵が無免許であることは知らなかつたから、かような場合、宅建法一三条所定の名義貸し違反の罪は成立しない旨主張する。

しかしながら、宅建法一三条においては、名義貸しの相手方につき、これを無免許者に限定するかの如き文言は何等置かれていない。又、これを実質的にみても、同条が、いわゆる名義貸しの所為を禁止し、右所為に対し同法七九条三号の厳罰を以てのぞむゆえんのものは、かような行為は広く健全な宅建取引業界の発展を阻害し、顧客等に対する無責任な取引の温床となつて不測の損害を与えることが多いことを配慮した点にあると解されるのであるから、かような同条の立法趣旨に鑑みると、前記構成要件の解釈上、名義貸しの相手方を無免許者に限定せしめることは相当でないというべきである。

よつて、右主張も採用できない。

(三)  最後に、被告会社らは、以上の主張が採用されないとしても、本件各取引上の名義貸しに際し、もと〓富裕一郎所有土地の販売についてのみその使用を認容していたにすぎず、従つて右以外の分につき名義貸しの責任を負ういわれはない旨主張する。

しかし、関係各証拠によれば、湘南丘陵が、予め、販売土地を限定していた事実がないのは勿論のこと、被告人福田においても、本件名義貸与に際し、予めかような限定を明示的に加えたことはなく、右以外の土地販売に関する手数料も異議なく受領していると認められるのであるから、被告会社らにおいて、判示各取引行為全部につき、名義貸しの刑責を負うことは明らかである。

よつて、主文のとおり判決する。

別紙一覧表

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